2008年09月11日

『白鯨』を読む

 久しぶりに長編小説(それも大長編)を読んだ。『白鯨(MOBY-DICK OR THE WHALE)』。 日本では小説より映画のほうが有名という印象を持っているが、それは私と『白鯨』の初対面が映画だったからかもしれない。
 とにかく私が同名映画を見たのは、たしか小学校低学年の頃だった。もしかしたら記憶違いかもしれないけど、鯨が跳ねるように去っていく姿と、ラスト、イシュメールが棺桶に入っていくシーンを覚えている。楽しんで鑑賞した記憶があるが、内容はまったく覚えていない。

 とまあ、とにかく『白鯨』を読んだのだが、「知的ごった煮」といわれるだけあって、まさに「ごった煮」だった。イシュメールはあちこちに飛び回り(一人称などまるで無視)、鯨学、捕鯨のノウハウ、聖書、宗教学、歴史、地理、解剖学、etc。ときには舞台の台本のような文章になったり喜劇的要素を含んだり。
 ちょっと無茶な部分もあったりするのだけど、そんなディテールは吹き飛ばしてしまう絶対的なパワーを持っている。私が持っている小説のイメージなど矮小なものなのだと、小説は私が思っているよりもはるかに自由なのだと感じさせる一冊だった。オススメ。

 白鯨(モービィ・ディック)はアメリカ人が持つ意識の総体や理想(のようなもの)のシンボルであり、ピークオッド号は人種のるつぼと化した現実のアメリカを示している、そして最終的にピークオッド号(アメリカ)が敗れ去り、理想が逃げていく話なのだ――という説があるらしい。あくまで一つの説でしかないけれど、そういうふうに言われると「なるほど」と思ってしまう。
 くしくも今日は9・11。このタイミングで『白鯨』を手に取ったのはどういうことだろう? シンクロニシティだって満更ではない。別に意味なんてないかもしれないが、偶然の一致によって世界は作られていると言っても間違いではないのだし。

 訳者のあとがきを読んで知ったけど、イシュメールとクイークェグは同性愛の関係なんだとか(またはそういう可能性があるのだとか)。気付かなかった……。時代を考えると、かなり勇気あるプロットだと思う。
 やっぱり小説は自由です。

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2008年08月25日

ダブルショック

公開中の映画『The Dark knight(ダークナイト)』。
ナイトをNightだと思い込んでいたのは私だけなんだろうか? これじゃあまるっきり『探偵ナイトスクープ』と同じトリックじゃないですか、と思ったりもしたのだけど、たぶんそんなことを言っているのはかなり少数派だと思う。
しかしまあ、劇中でも「夜明け前が最も暗い」云々と言っていたので、まんざらNightが間違いというわけでもなく、たぶん意味が係っているのだろう。NightとKnightは発音も同じだし。

とにかく『ダークナイト』を見て、かなりガツンとやられてしまったワタクシですが、立て続けに大江健三郎の『万延元年のフットボール』でもやられてしまった。



はじめのうちはちょっと読みにくいけど、リズムに慣れてしまえばあとは小説の世界に飲み込まれてしまう。もっとはやくに出会っておけばよかったな、と思う一冊。
『万延元年のフットボール』は、三田誠広の『深くておいしい小説の書き方』でも紹介されていた(たぶん……私の記憶が確かならば)。ということはつまり、「深くておいしい小説」ということ。

夏を回想すれば誰でも、いくつかの物語が胸に浮かぶもの。年を重ねるごとにそういう体験は少なくなって、少し寂しくもあるけど、映画や小説はそんな寂しさや物足りなさを埋めてくれるような気がする。もっとポジティブな捉え方だってできるけど、そんな一面があるのも事実。
「映画って本当にいいもんですね」という名言があるけど、それと同じくらい小説もいいもんです。

posted by タチバナ at 00:33| 本の紹介

2008年07月07日

The Adventure of Huckleberry Finn【ハックルベリー・フィンの冒険】

このところ、ほとんど洋書を読んでいなかったので、久しぶりに挑戦し、やっとこさ読み終えた。定期的に「英語脳」を刺激しておかないと、感覚が鈍ってしまいますからね。
読んだのは下の本。



『トムソーヤの冒険』は子供の頃に読んだけど(作者は同じ、マーク・トウェインです)、ハック・フィンのほうは未読だった。せっかくなので原書で読もうと、そういうわけ。
微妙に表紙の絵が違うけど、これと同じタイプ(ペンギンのやつ)のペーパーバックスです。

約370ページ。日本語に翻訳すると600ページ弱というところか。いずれにしろ、それなりの分量がありますね。
しかも方言やスラングがかなり多いので、読むのが大変。正直、イマイチ理解できていないところが多々あったり……。洋書を読むときは「分からないところがあって当然」という具合に、開き直りも大切ですから。あまり気にしないでおこう。

背表紙には、アーネスト・ヘミングウェイのこんな言葉が書かれていました。

All modern American literature comes from...Hucklebelly Fin...It's the best book we've had.
訳すと【すべての現代アメリカ文学はハックルベリー・フィンに由来する。我々が手にした最高の本である】ってな感じかな? 細かいツッコミはナシの方向で。

ヘミングウェイを唸らせるほどの本なのか。私はそこまで読み取れず、ただ楽しく読んでしまいましたよ、ははは。
再読したり日本語で読んでみたりと、もうちょっと深くこの作品と接する機会を持つべきかもしれません。

私のように、単純にドキドキ、ワクワクを目的として読むこともできる冒険小説ですので、本を通して刺激が欲しい方はぜひどうぞ。
posted by タチバナ at 14:03| Comment(1) | 本の紹介

2008年06月03日

怪奇全百科、求む

『小学館コロタン文庫』から出版されていた『怪奇全(オール)百科』。ほかにも恐竜とか妖怪のシリーズがある。
小学生のころ持っていて何度も読み返していたが、引越しのドタバタにまぎれてなくしてしまった。

今になって考えてみれば、書かれていた内容はどれもうさんくさい、というかイマイチ信用できない怪奇ネタばかりだったけど、読み物としてなかなかおもしろかったと思う。
古本屋で見かけたら絶対買ってやろうと思っているのだが(新刊はさすがに出ていないと思うし、定価で買うのは正直嫌だ)、なかなか発見できない。
アマゾンで検索してみたけど、在庫切れとのこと。

この本以外にも、私には生涯をかけて取り戻したいと思っている本が何冊かある。引越しでなくしてしまった本。
『怪奇全百科』もそのうちの1冊。でも『怪奇全百科』に関しては、その気になれば見つけることができるような気がする。根拠はないけど、なんとなく。
なかには本のタイトルはおろか、どんな内容だったかすらほとんど覚えておらず、漠然としたイメージしか残っていないものもあるので、それに比べれば。

というわけで、『怪奇全百科』求む!
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2008年05月09日

タイムスリップ・コンビナート

笙野頼子さんの『タイムスリップ・コンビナート』を読みました。第111回芥川賞を受賞したこの小説。いや、なかなかぶっとんだ本でしたね。
なんと言ったらいいのやら、どのように解釈すればいいのやら。しかしながら確実に心の真ん中のあたりの芯に残る作品でした。
表題作のほかに『下落合の向こう』と『シビレル夢ノ水』という短編(中篇?)が併録されています。

『シビレル夢ノ水』の終わりのほうに夢日記を書く場面があります。芥川賞――だけでなく野間文芸新人賞や群像新人賞もとっていますけど――作家の書く夢日記はやっぱりレベルが高くて、私にはなかなか参考にできる部分はありませんでしたけど。
かなり好みの別れる作家ではないかな? と思いますけど、一冊全部が夢の中を表現しているような、そんな本なので夢に興味のある人はぜひとも一読してほしいですね。

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2008年02月22日

ティファニーで朝食を――村上春樹ver

■『ティファニーで朝食を』が村上春樹氏の翻訳で出たそうな。
そうとは知らずに、つい最近読み直してしまったところだ……。確かに最近この本の新訳が出たという話は聴いていないので、そろそろいいタイミングだったのかもしれない。
村上春樹氏はほかにもカポーティの作品をいくつか翻訳しているし、フィッツジェラルド、サリンジャー、アーヴィングなども翻訳している。何冊か読んだことがありますが、どれも作品にとても愛着が感じられてよかったですね。

次はなにを翻訳するのだろう(特に心待ちにしているわけではないけど)。個人的にはレイモンド・チャンドラーの『Farewell, My Lovely(さらば愛しき女よ)』あたりを希望。


【外部リンク】
ティファニーで朝食を

さらば愛しき女よ
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2007年12月01日

スプートニクの恋人 【The Sputnik Sweetheart】

■ライカ犬のことを知ったのは、私が高校生のときだったと思います。詳しいことは忘れてしまったんですけど、たしかFM802のヘビーローテーションに、ライカという歌が選ばれていました。
物置を発掘していると、60年代のラジオが出てきた(恐らく父親が使っていたもの)、ちょうどその時期に選ばれていたヘビーローテーションだったので、耳にたこができるほど聞いたのを覚えています。
その歌は、もちろんライカ犬のことをテーマにしたもので、ライカが衛星から地球を見下ろしているときのことを思って書かれた歌だった。たぶん。
これが、私がライカ犬の存在を知ったきっかけ。

■村上春樹さんのスプートニクの恋人を読みました。
前に一度読んだことがあるんですが、なぜか気になって再読。
今の村上春樹さんの作品の出発点ともとれる文体や世界観が凝縮された作品だと思うし、「理解というものは、つねに誤解の総体に過ぎない」など、彼の考え方がダイレクトに反映された作品。

一番はじめのページには、人工衛星スプートニクの説明があって、ライカ犬のことも少し書いてあります。
宇宙空間に出た最初の生命体―とのこと。ライカが乗っていたのは、スプートニク2号で、衛星はそのまま回収されることはありませんでした。
私がスプートニクとライカについて知っているのは、この本に書かれていることでほぼ全部。でも、それだけでもなんだか色々考えさせられるような気がする。人工衛星の中から地球を見つめるライカのことを想像すると、単純にかわいそうだと思うし、人類や科学の進歩のため、だとか。その延長にある自分の生活だとか、今の世界だとか、あれやこれやまでイメージしてしまって、頭の中がグルグル回る感覚が生まれます。
でも、結局答えは出ない。


■あんまりストーリーを言ってしまうと、まだ読んでない人に悪いので、夢占い的に気になるところだけ。
主人公の”ぼく”が恋をする、すみれという女性が登場するんですけど。すみれがフロッピーディスクに書いた中に、彼女が見た夢の内容があります。
その内容が興味深くて。
夢の内容自体はそんなに珍しいものではなく、誰でも見る可能性があるんですが(どんな夢でも見る可能性はありますが)、前後のストーリーと人物の描写と。それらとあわせて考えると、その夢以外にはありえないというか、とてもピッタリくるというか。
どうしても、私は夢という言葉には敏感になってしまうので、夢の描写の部分を注意深く読んでいたんですけど。
夢の記述を中心に、人物や全体のストーリーを読んでみると、自分とシンクロしてしまう奇妙な感覚がありました。
うーん、言葉にするのが難しい。


■村上春樹さんの本は、実はそれほど読んでいるわけではなくて。
私のプロフィールの好きな本のところに「海辺のカフカ」がありますけど、私が読んだのは、その海辺のカフカと、今回のスプートニクの恋人と、あと短編集を何冊か。そのくらい。
あと一冊くらい読んだかも?
読んでいて毎回思うことですが、村上春樹さんの文章には色を感じる。
完全に私が勝手に感じているだけですが。著書によって、場面によって、目の前に色が浮かんでくる。たとえば、薄い青色だったり、黄色っぽかったり。
全体的に、淡い色の印象が強いです。
で、スプートニクの恋人は何色かと言うと、あらゆる色(笑)。
地球の周りを今も回り続けているライカのこととか、夢のこととか、色のこととか、ヘビーローテーションを聞いていたときのこととか。
村上春樹さんが、どういう想いを込めてこの作品を書いたのかは、私にはぼんやりと、雰囲気程度しか読み取れませんでしたけど、いろいろな面から強い印象を受けた一冊でした。
立ち止まったときにもう一度帰ってきたいと思える本でしたね。
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2007年10月20日

本の紹介:マイクロソフトで出会えなかった天職

■こんな本読みました。

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

いやー、いい本だった。
別に起業家を目指していない人でも、これは読んで損はないですよ!

著者は、あのマイクロソフトでバリバリ仕事をこなしていたエリート。
しかし、あることがきっかけで恵まれない国に図書館を作る活動をはじめることになります。
恋人とも別れ、エリートとしての人生も捨てて。
その生き方には、多くの学ぶべきことがありました。

笑いあり、涙あり、感動あり。
でも、わざとらしくない。
エンターテイメントとしても楽しめます。
(しかも翻訳がウマイ!)


■慈善事業というものを、私は今までほとんど考えたことがありませんでした。
でも、この本を読んだ後は「こういう生き方も魅力的だなぁ・・・」と、妙に心に残る、でも爽快な気分を味わいましたね。


■本との出会いは、生きるうえでとても大切な出会いでもありますし、大きな発見を授かることもあります。
数千円の投資で、新しい価値観や生き方を学ぶことができるなんて、本とはなんてありがたいアイテムなんでしょう!
こういう本に出会うと、つくづくこれを感じます。


■読みやすいように、細かい工夫がされているので、かなりスラスラ読めます。

普段はあまり本を読まない方
普段から読んでいるけど、最近おもしろい本に出会っていない方
などなど。

ぜひどうぞ!
posted by タチバナ at 23:13| Comment(0) | 本の紹介